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Chuard et al. (2019)
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daimoriwaki authored Sep 6, 2024
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id: "145"

title: "出産一時金制度の導入"

description: "スイスにおける、出産一時金制度が出生率、新生児の健康および出産行動に与える影響"

date: "2024-09-05"

category: "fertility"

categoryLabel: "少子化対策"

tables: [
{
"title": "出生率(総出生数を15~49歳の妊娠可能な女性の総数で割り、35を乗じて算出)",
"effectiveness": "ミックス",
"strength": 3
},
{
"title": "粗出生率",
"effectiveness": "効果なし",
"strength": 3
},
{
"title": "新生児の体重",
"effectiveness": "効果あり",
"strength": 3
},
{
"title": "低出生体重児の割合",
"effectiveness": "効果あり",
"strength": 3
},
{
"title": "乳児死亡率",
"effectiveness": "効果なし",
"strength": 3
},
{
"title": "死産率",
"effectiveness": "効果なし",
"strength": 3
},
{
"title": "新生児の男女比率(流産の代理変数)",
"effectiveness": "効果なし",
"strength": 3
}
{
"title": "出産日の調整",
"effectiveness": "効果なし",
"strength": 3
},

{
"title": "母親の出産年齢",
"effectiveness": "効果あり",
"strength": 3
}
]


points:
- 出産一時金の導入により、短期的に出生率の増加が見られたものの、効果は持続しなかった。粗出生率への影響は確認されていない。
- 新生児の平均体重は導入年に増加し、低出生体重児の割合も減少。これらの効果は時間とともに減少した。乳児死亡率、死産率、新生児の男女比率(流産の代理変数)に対する影響は確認されなかった。
- 出産日の調整に有意な影響は確認されていない。一方、母親の出産年齢が若年化する影響が確認された。

contacts:
- 平野咲子(パリ政治学院公共政策大学院)

---

## 背景
- 出産一時金の導入によって、中長期的には夫婦への金銭的インセンティブの付与を通じた出生率の上昇と、経済状況の改善を通じた新生児の健康の改善が期待できる。
- しかし短期的には、導入や撤廃を見越した意図的な出産の前倒しや延期が行われる可能性があり、新生児の健康に深刻な影響を与えるという指摘も存在する。

## 介入
- 州単位での出産一時金制度の導入
- スイスは3層の行政レベル(連邦、州、市町村)から成る分権的な連邦政治体制を採用。
- 出産一時金については、各州が個別に導入・廃止の是非を決定する権限を有する。過去50年間で全26州のうち11州が異なるタイミングで出産一時金制度を導入済み。
- 支給額の設定や変更も各州の裁量に任されている。2012年時点で、ジュネーヴ州は出産一時金を1,000スイスフラン(約17万円)から2,000スイスフラン(約34万円)に増額。
- 受給の対象は、出産一時金制度を導入する州に居住し、導入日以降に出産した全ての母親である。

## 評価指標
- 出生率:
- 出生率(総出生数を15~49歳の妊娠可能な女性の総数で割り、35を乗じて算出)
- 粗出生率(1,000人あたりの年間の出生数)
- 新生児の健康:
- 出生時の体重
- 低出生体重児(出産時点で2,500g未満)の割合
- 乳児死亡率
- 死産率
- 新生児の男女比率(男性胎児はより高い流産リスクに晒されていることから、流産の代理変数として使用)
- 出産行動:
- 出産日(制度導入前後の出産日数の分布で確認)
- 母親の出産年齢

## 分析方法
- 差の差分析(DiD)
- スイスにおける出産一時金の効果を、異なる州に異なるタイミングで導入されたという状況を活用して研究を実施。
- さらにイベントスタディ型のDiDを採用し、時間の経過に伴う介入の効果の変遷を分析。

## 証拠の強さ
- SMS:3
- 差の差分析(DiD)を用いて、 一時金を導入した州を介入群、未導入の州を対照群として、各種指標の変化を比較している。
- 導入前の期間において、各指標について介入群と対照群の間に有意な差が見られないことを示し、平行トレンドの仮定を確認している。

## サンプル
- スイス全土における、出生・死産・乳幼児死亡に関する行政データ(1969年-2017年)が対象。

## 結果
- 出生率
- 出産一時金の導入年に出生率の0.089ポイント増(+5.5%)の効果が見られ、4年目まで同程度の効果が確認されたものの、5年目以降特に大きな効果は確認されなかった。粗出生率に対する有意な効果は確認されていない(5%水準)。
- 新生児の健康
- 新生児の平均体重は、導入年に約93グラム増(+2.8%、0.1%水準で有意)。しかし、効果は時間の経過とともに減少し、導入8年後には約19グラム増(5%水準で有意)に留まる。
- 低出生体重児の割合は、導入年に0.015ポイント減(-28%、1%水準で有意)。以降、6年後までは有意な効果が確認できるが、効果は減少する(0.1%水準〜5%水準)。
- その他、乳児死亡率、死産率、新生児の男女比率(流産率の代理変数)に対する有意な効果は確認されていない。
- 出産行動:
- 出産日の調整に対する有意な変化は確認されていない(5%水準)。
- 一方、出産手当の導入により、母親の出産年齢が平均で0.474歳(約6ヶ月)若くなることが確認(0.1%水準で有意)。

## 研究の弱点
- スイスが高い経済水準にあることに鑑みると、外部妥当性が限定的である可能性がある。実際、本研究では一部指標については女性の出身国により効果が異なることが確認されている。

## 書誌情報
- Chuard, C., & Chuard-Keller, P. (2021). Baby bonus in Switzerland: Effects on fertility, newborn health, and birth‐scheduling. Health Economics, 30, 2092-2123. https://doi.org/10.1002/hec.4366

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